紙のふしぎ展/浜田市世界こども美術館 収蔵作品
#レシートアート
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レシートアート
記憶のリサイクルと生活の断片
レシートアートとはなんですか?
日本全国、世界各国から集めたレシートを使って、制作した独自のアートです。
主にその場で公開制作をいう形のパフォーマンス作品です。
2017年「デザインフェスタ2017」東京ビックサイト
レシートアートを作るキッカケはなんですか?
僕が子供の頃、映画館でポップコーンを買っていた時、目の前に1組のカップルがいました。そのカップルは映画デートの途中だったんでしょうね。「思い出に映画の半券、取っておこうかな〜。」なんて会話をしていて、レジでお会計を済ませている時そのカップルは「レシートはいらないです」と言いました。その時僕はなんだかもどかしい気持ちになりました。なぜなら、今ここでのレジの出来事は、映画デート思い出からこぼれ落ちてしまう、と思ったからです。確かに、重要な出来事ではないのかもしれません。明日には忘れてしまうような小さな記憶です。しかし、このポップコーンを買った出来事も、映画デートに彩りを与える大事なドラマの1ページではないかと思うんです。この体験から、当たり前すぎて忘れ去られてしまうような記憶に価値を与えることはできないだろうか、と思ったことがキッカケです。
レシートはどのように集めていますか?
捨てられてしまうような不要なレシートを、日本各地からあるいは海外から郵送して提供していただいています。また、個展会場や、イベントでの不要なレシート回収BOXを設置して、その場でご提供していただいています。
このアートはどのように制作されているのですか?
使用するレシートは感熱紙に印字されたレシートを使用しています。一切絵の具やペンなどは使用していません。感熱紙は熱を与えて黒くなるという性質があります。その性質を活かし、ハンディアイロンやコテ、ホットガンや爪の摩擦熱など、熱を発するもので描いています。時にクレジットカードの控えなどに使われる色付きのレシート、ロール紙の終わり際にでる赤いラインのレシートを使用することもあります。
また、感熱紙は時間とともに劣化して生きます。2〜3年で黒く発色した部分はセピア色になり、薄くなってゆきます。しかし、それは私達の記憶に似ているのではないかと思います。時間が経つと変化してゆく。時間が見えるアートとも言えるのかもしれません。
このアートの面白いところはなんですか?
レシートは感熱紙という熱が伝わると黒く印字される特殊なインクが表面に塗られているため、リサイクルすることができません。アメリカでは、レシートに1年間で約300万本以上の木と約340億リットルの水が使われるにもかかわらず、約13万トンのごみとなり、約181万トンのCO2を出しているという結果もあります。中にはレシートをトイレットペーパーなどにリサイクルしてしまう企業が存在します。それらのトイレットペーパーが流されることで水質汚染が起きています。みなさんが当たり前に捨てているレシートは環境汚染の元にもなっているかもしれないのです。完全に電子レシートなどに移行するにはまだまだ時間がかかってしまうのが現状です。しかし、レシートはかつての持ち主の様々な日常が詰まった、記憶と記録そのものです。その人が生きた軌跡でもあります。そんな行き場のないレシートを、記憶のリサイクルという形で、アートとして新しい姿になって楽しんでもらえるのではないかと思っています。
また、絵具などは使わず、熱で仕上げていくため、電源さえあればどこでも描くことができます。仕上がっていく過程と膨大な量のレシートの景色は壮大なものに映るのではないでしょうか。
2019年「六本木アートナイト2019」六本木ヒルズ
このアートはあなたにとってどのようなものですか?
レシートは日本全国、または様々な国から送られて来ます。レシートは僕にとってコミュニケーションの切符のようなものです。正直、僕はあまりコミュニケーションが得意とは言えません。しかしながら、レシートはその人の本質や生活が見えてくるようで、直接話さなくても、読み取れるものがたくさんあります。その人の人生の断片を紐解いていくように感じます。
また、レシートを送ってくださる皆さんとの関係性も面白いと思っています。だって、すごくプライベートな内容書いてありますよ。コンビニで下着を数枚買った、コンドーム買ったとか、いつどこで高カロリーなもの爆買いとか(笑)顔も名前も解らないけれど、これ見られて大丈夫?みたいな内容のレシートが送られてくる関係性は、現代の情報社会の中では、濃密で特殊な関係性を築いているのではないかと感じます。そして皆さんは完成したレシートアートを見に来ては「私のレシートはどこに使われているのだろう」と、またレシートを提供していくのです。
2022年「LAFORET GRAND BAZAR 2022」ラフォーレ原宿
このアートで何を伝えたいですか?
僕は大したことはしていません。レシートが世の中から消えれば、地球環境にも良いし、僕の仕事が1つ減る、それだけのことです。レシートアートはレシートを捨てようと思っていた皆さんが僕の元に届けてくれて、初めて出来上がる作品です。言い方を変えれば、皆さんと僕が一緒に作り上げる作品であるということです。きっと感熱紙のレシートは無くなっていくことでしょう。記録媒体も変わってゆきます。レシートアートも薄く消えてゆきます。それでいいと思います。しかし、レシートで紡いだ時間と記憶が新しい形となって、皆さんの記憶にと生活に彩りを与えられたら幸いです。
レシートのご提供先
〒1500001
東京都渋谷区神宮前6-23-4 桑野ビル2階
ViableKids.VIKI宛
※チルド、着払い、時間指定の受け取りはできませんのでご了承ください。
《プシューケーの瞼》2019年
《白の訪問者》2019年
PROFILE
V I K I (ヴィキ)
2022年東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。日常的で記憶に残らないような時間や消費行動を「時間のささくれ」とし、情報社会に生きる自身と他者との関わりや「個」としての在り方など、時間に纏わる言語を考察しながら制作をしている。
日本全国からレシートを集め、2015年からアイロンとレシートを使ったライブアートパフォーマンスを開始。熱を与えると変色する感熱紙の特徴を生かし、熱でドローイングする。ほか、壁画、油画、インスタレーション、グラフィックデザインなど、活動は多岐にわたる。
Exhibition(抜粋)
2024
「tagboat Art Fair2024」
現代アート展〜新進気鋭の日本作家たち〜(京王百貨店/東京)
個展「mirrorge」(ギャラリー自由が丘/東京)
「100人10 2023/24」(渋谷キャスト/東京)
GREEN Holiday アップサイクルアートイベント(Hisaya-odori Park/愛知)
2023
「紙の不思議展 ペーパーマジック」(浜田市世界こども美術館/島根) 収蔵
グループ展「ART STUDENTS STARS Vol.2」(+ART GALLERY/東京)
「ART FAIR GINZA」(銀座三越/東京)
個展「Chained Butterflies」(デザインフェスタギャラリー原宿/東京)
二人展「Xenos#2」(gallery fu/神奈川)
「tagboat Art Fair2023」
「Second skin」(ギャラリー自由が丘 / 東京 )
2022
個展「Face of Face」(gallery fu/神奈川)
「エピソードone次世代アーティスト16人展」(阪急うめだ/大阪)
個展「Unconscious Mirror」(ギャラリー自由が丘/東京)
「アートフェア東京2022」ボヘミアンズ・ギルド(国際フォーラム/東京)
「tagboat Art Fair 2022」
「TAGBOAT ART SHOW」 (阪急メンズ/東京)
「第70回東京藝大卒業・修了作品展」
2021
個展「change the scape」(CROSS OVER神楽坂/東京)
「SHIBUYA STYLE vol.15」(西武渋谷/東京)
「図鑑展ワンダーランド!」 (藝大アートプラザ/東京)
「The Prize Showー藝大アートプラザ大賞受賞者招待展ー」(藝大アートプラザ/東京)
個展「この人、さがしてます。」(ギャラリー自由が丘/東京)
「tagboat Art Fair 2022」
個展「#君って、、、」(TAKU SOMETANI GALLERY/東京)
2020
「100人10」
個展「NarrativeFragmentsもうひとつの、あなたと、わたしと、せかい」
(ギャラリー自由が丘/東京)
「三菱商事アート・ゲート・プログラム」
2019
「アート解放区」(TENOHA代官山/東京)
京急百貨店(京急百貨店6階/神奈川)
個展 「TSUNAGU GALLERY くらしの記憶」(国際紙パルプ商事1Fエントランス/東京)
「六本木アートナイト2019」 (六本木ヒルズウエストウォーク2F /東京)
2018
「ユトリエ」(博多阪急/福岡)
横浜髙島屋(髙島屋6階/神奈川)
Award
「第14回藝大アートプラザ大賞」準大賞
「コミテコルベールアワード2019」入賞
「IndependentTokyo2019」染谷琢 賞
「アートオリンピア 2019」学生部門入選「UNKNOWN/ASIA2018」 曽根 裕 賞
Media
MBS「20秒後に買いたくなるアート」¥2,400,000落札
TBS「アッコにおまかせ!」
日本テレビ「ヒルナンデス!」
読売テレビ「大阪ほんわかテレビ」
フジテレビ 「Live News α」
TOKYO MXテレビ「バラいろダンディ」
日本テレビ「地球にいいこと学ぼうSP」
「凄技クラフトマン」
読売テレビ「もったいないオバケちゃん」
日本テレビ「スゴ動画超人GP」
日本テレビ「世界まる見え!世界特捜部」
日本テレビ「nextクリエイターズ」#19
NHK Eテレ「Rの法則」
BS11「日本創造紀行 和ーティスト」
日本テレビ 「ぶらり途中下車の旅」
NHK Eテレ「シャキーン!」
日本テレビ「デザイン・コード」#165
COCOA出版「FA-magazinevo.57」
国際紙パルプ商事「TSUNAGUvol.34」
「Japan Times」インタビュー
アーティストステイトメント
僕は熱しやすく冷めやすい生き方をしてきた。言ってみれば器用貧乏として生きてきたのかもしれない。おとなしくて、笑わなくて、紙とペンをいつも持ち歩いている子供だった。父子家庭で育った幼少期、コンビニ弁当生活が続いた。母親代わりの祖母が入院した時だった。値段と日替わり弁当と書かれた感熱紙のラベルは、油汚れのついた電子レンジで温めると、小さなラベルの世界がじんわりと飲み込まれるように黒くにじんでいく。僕は油に放り込まれたような時間を体感し、消費されていく感覚を持ち始めた。もう二度と戻らないというリアリティがつきまとい、生死と時間が定められた速度で前に進んでいる。誰にでも平等に与えられる 24 時間を意識せざるを得なかった。それから僕は、コンビニ弁当を買っては電子レンジで温める度に、じっとラベルの世界が染まっていく時間を見届けることが日課になった。後に僕の中にある身動きができないような静かな熱を、そのまま表してくれる感熱紙が感情のキャンバスとなった。そして紙とペンを持ち歩いていた僕の手には、いつしかレシートだけになっていた。レシートには自分の超日常が記録されていることに気づいたからだ。爪先がペンの代わりとなり、掻きむしるように摩擦熱となって、他者の時間が刻まれたレシートにも施されていった。とはいえ、時間は僕を構成するエレメントであるにも関わらず、僕は未だに時間を理解できない。あるいはそもそもその気がないのかもしれない。しかし、他者は僕が知りえない時間を容赦なく与えてくる。他者と僕の時間の摩擦を感じるとることで、はじめて時間を理解できるのではないかと考えている。それが自身の生であり、時間が実体化するのである。
熱はいつかきっと冷めてしまうかもしれない。熱が色褪せて、記憶や記録として残していたものの輝きを失ったとしても、僕は褪せてしまった時間は美しいと思う。そしてまた新たな時間として見つめ直さなければならない。